赤紙

幼い頃足を悪くした父は
戦争には行かず
軍需工場の工員たちの作業着の
修繕などをしていたとのことだ

隣組の役員をさせられ
配給物資の仕分けをしたり
戦時国債などの募集をしたり
苦労をし、終戦を迎え

戦後の不況時には
洋服の仕立商もうまく行かず
税務署が差押えに来たことがある

差押えの紙、赤紙を張りに来たのは
遠賀(おんが)税務署の職員だったが
幼い私には
よほどその印象が強く焼きついたのか
彼らに似た人の姿を見ると
遠賀(が来た)遠賀(が来た)と
声を上げていたそうだ

私の記憶の中では、既に消えて無いのだが
父や母が折にふれ語り伝えてくれた

赤紙一枚で召集された軍隊に
行かずにすんだ我が家の話―

いつまでも
語り伝えていけるのだろうか
遠い昔の笑い話として

(かつて発表した作品を一部改作)