海の記憶

遠浅の海に沿った防波堤の向こうで
漁船が繋がれていた

足の悪い父は
大きく体を揺らしながら砂浜を歩み
海に入って行った

父は仰向けに海に浮かび
しばらくすると
私たちの方を向き
これが立ち泳ぎだと
浮き輪にしがみつく私に語りかけてきた

その海も埋立地が迫ってきて
遊泳禁止となり

遠く
わずかに蒸気を上げながら
タービンを回していた
火力発電所も、今はなく

海辺をたどっていくと
そこからさらに遠く
原発のある風景がある
という

それ以上たどるのは無理だ

私のふるさとの海の記憶が消失している